たとえば、黒々とした土の中から掘りおこしたホッコラとしたジャガイモ。
あるいは夏の夜明け、まだ朝霧に包まれている紫紺色のナスや茜色のトマト。
そして秋、はじけそうな実を鈴生りにつけた黄金色の稲穂。
それらはみんな、まぶしいほどのいのちの輝きに満ちています。
健康ないのちを受け継いでいてこそ、健やかな人の営みがある・・・・・
そんなことをしみじみと感じながら、
季節のめぐりのなかで私たちは種をまいています。
仙台市から南へ約40キロ、宮城県の南部は阿武隈川の流域に位置する角田市。ここ
はササニシキ、ひとめぼれに代表される宮城米の米どころとして知られています。農
家は3,600戸、その9割は兼業農家ですが、私たちは25年以上にわたって「い
のちを守る農業のまち」を基本理念として、安全な農産物の生産拡大運動に取り組ん
できました。米づくりにおいては、農薬航空散布を全面禁止して有機低農薬米を生産
しており、生協との提携米ほか産直米、酒や米菓などの加工米としての需要が増えて
きています。ヘリコプターによる大規模な農作業は、日本農業近代化の象徴ともいえ
るもの。角田でも年4回、農薬の空中散布が実施されていましたが、1991年以来
全面中止し、基本的栽培管理を自分たちの手にとりもどしました。それは農業者とし
て、自分たちの作物に責任をもちたいという願いからであり、また効率優先、経済至
上主義に象徴される農業近代化の流れからの「自立」宣言でもありました。農業とは
何だろうと私たちは考えました。農村は農民の生活の場であり、同時に人びとのいの
ちを預かる食糧生産の場です。しかし、地球上の資源とエネルギーを使いながら新し
い価値の生産をすれば、環境に負荷がかかります。それを減らす努力は、この星に暮
らす全ての人がしなければならない時代といえるでしょう。自分のために、自分のま
わりの人や自然やいきもののために、安心できる環境を保持する努力。そこから安全
農産物生産運動も出発するのではないか。私たちの気もちのなかにずっとあった他者
との関わり方、それが「共生」という方向性に向かい、農業者としての生活に自信と
誇りをとりもどす模索を、私たちは始めたのでした。